2019.12.21

【読書】元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ

小倉志郎 著
「元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ」
(彩流社)

勉強すればするほど、自分の知識や経験の浅さを思い知る。
そうして、無知の知に立ったときこそがやっとスタートラインだ。

世の中には人体に有害な物質というのはウンザリするほどある。
放射線に限らず、俺が生まれてから学校の授業や日常生活でTVから聞こえてきた言葉は、
「放射能」「サリン」「環境ホルモン」「足尾銅山」「水俣病」「水銀」
「ダイオキシン」「アスベスト(石綿)」「トリハロメタン」「PM2.5」。
今パッと思いつくだけでもウンザリする。
そして「それが何なのか、いまいちよくわかっていないが危ないらしい」という程度の認識が、
また不安に拍車をかける。すべてを知ることはできない。時間は限られている。

「よく知らずに仕事で公害をまき散らしていた」ということは日本の歴史上、今までにもたくさん起こってきた。
その度に軌道修正して、少しずつ改善されてきて2019年だ。
令和元年。今じゃもう、カイゼンという言葉は国際的な言葉になっているそうだ。

色々な社会問題が解決の方向に進んだのは、気づいた人や被害に遭った方々が気の遠くなるような
長い時間をかけて声を上げ続けて戦った結果、権利や補償を勝ち取ってきたからだ。
そうやって社会をアップデートしてきた方々には本当に感謝している。
でも、いつかその当事者たちはいなくなって、社会は次の世代に渡される。
戦争を知っている世代が去っていく。被爆者が亡くなっていく。
原発を作った技術者たちも引退していく。

命を賭けて問題と向き合ってきた世代がいなくなった後に、
また同じ過ちを繰り返してしまうことが恐ろしい。

本書の著者、小倉志郎さんは日本原子力事業株式会社(後に東芝に吸収合併される)に入社され、
定年退職するまで原子力発電所の見積・設計・建設・試運転・定期検査・運転サービス・
電力会社社員教育に携わっていたそうだ。

「世界中をさがしても原発の複雑なシステムおよび機器の全貌を一人で理解できる技術者はいない」

日本の原発第一世代の技術者が警告する。
TVで使われるようなポンチ絵の概略図ではなく、原子炉とそれにまつわる設備機器の、
余りにも複雑な図面を見て唖然とした。

そして、放射線被曝に対する認識もやっと変わってきた。
1945年に日本に落とされた2発の原子爆弾。
その原爆がまき散らした放射線による原爆症は、原爆落下地点の爆心地半径2km以内にいた人々だけしか
政府によって認定されていなかった。それを覆したのが2008年5月の大阪高裁による判決だ。

「原爆投下日以降、市内に入り、残留していた低レベル放射性物質の内部被ばくによる
患者たちの訴えを認める判決が下されたのだ。」

原爆投下から約63年が経っていた。

その証拠として採用されたのが「死にいたる虚構」という本だ。
翻訳された肥田舜太郎先生は亡くなられてしまったそうで、悲しい。

本書の最後の方に、非売品である「死にいたる虚構」を頒布されている連絡先があり、
先ほど連絡をしたところ快くその本を送っていただけることになった。

本書著者の小倉志郎さんや、前回の記事に書いた元GE技術者 菊池洋一さんともリンクできるかもしれない。

会うべき人に会う。会いたい人に会えるよう行動する。俺にできることは今はまだそれぐらいだけど。

俺はまだ何も知らない。

でも何もしないよりはマシだと思えることを地道にやる。

次の世代に確実に伝わってますよと、感謝を伝えたい。

#廃炉への道