2018.05.05

道端で寝てた酔っ払いを歩いて家まで送って一緒に居酒屋へ行った話

5月の暖かな連休の最中。札幌は桜の季節です。みどりの日で祝日の今日、札幌のライブハウス「クラブ カウンターアクション」では、ハードコアパンクスのバンド達が集まって、ライブイベントが行われていました。

ANTI HATE MUZIK FESTA。人種差別をしないという声明文を掲げて、革ジャンを着たパンクス達が狸小路1丁目に集まって盛り上がっていました。人種差別をしてはいけない。俺は、私は、人種差別をしない。そういうコンセプトのパーティーでした。

そのライブハウスのオーナーである、KOさんがやっているSLANGというハードコアパンクバンドの演奏を聴いて、パーティーはまだ続いていたけど、二級建築士の勉強をするために会場を出ました。

地下鉄の駅に行く途中で、狸小路4丁目・駅前通りの吉野家に寄って遅い夕食を取りました。牛丼並盛り。22時くらいでした。

「何もしないお前に何がわかる」
「何もしないお前の何が変わる」
SLANGの曲の歌詞がまだ胸に響いていました。

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吉野家を出ると、目の前の市電の停留所の前で人が倒れていました。

「大丈夫ですか!?」と声をかけると、意識はあるようで「大丈夫だから放っておいてくれ」というジェスチャー。だけど、そうはいかない。まだ若いが、かなりひどく酔っ払っている。「こんなところで寝たら、風邪をひくし、財布を盗まれますよ」と声をかけたが、動こうとはしない。近くに置いてあった、まだ開栓されていない水のペットボトルを渡した。自分で買ったのだろうか?しかし、水は放り投げられて、追い払おうとしてきた。すると、後ろからMTBを押した若者が現れた。

「水を置いといたけどダメか」と若者は言った。どうやら、彼も通りすがりだが、水を買ってくれた人らしい。酔っ払いはフラフラと立ち上がると、俺たちの手を払いのけてヨロヨロと歩き出した。若者とアイコンタクトする。

若者「知り合いの方ですか?」
俺「いや、通りすがりだよ。君こそ彼の友達?」
若者「いや、通りすがりです」

一体どうなってるんだ。あの酔っ払いは一人で寝てた。友達に見捨てられたのか?あの泥酔を放置するなんて、本当に友達なのかよ?

酔っ払いはフラフラと信号を渡ってタクシーの方に歩いて行った。しかし、タクシーに乗ることもなく歩道に座り込んでしまった。

俺「尾行してみるか。酔っ払いを尾行したことある?」
若者「何度かありますよ」
俺「あるのかよ。プロじゃん」
若者「大通らへん、午前2時とか3時とか、よく道で寝てる人いるんですよ。家まで送ったこと何回かあります」
俺「キミ、めっちゃいい人だね」

座り込んだ酔っ払いに声をかけた。

俺「家は近いの?ここで寝たら風邪ひくし財布とか盗られるよ」
酔っ払い「帰れる・・・から構うな」

酔っ払いは鋭い目をしてる。そして、また立ち上がって歩き出した。スラムダンクの桜木花道のように手から「タクシーに乗れ。乗れ!」と念を送るが、効かない。歩道に停めてある自転車や壁を蹴ったり叩いたりしながら酔っ払いは歩いていった。

若者「結構キテますね」
俺「アレはアウトだなー」

酔っ払いがフラフラと道路の中央分離帯に入っていった。後ろから徐行した車が来ている。危ないし、迷惑だ。アウト。走って追いかけて捕まえた。

俺「おい、危ねえぞ。後ろから車来てる」
酔っ払い「結構見えてません」
俺「危ねえじゃん。とりあえず水を飲みなよ」

若者が買っておいた水のペットボトルを差し出す。今度は素直に受け取った。

若者「大丈夫ですか?家はどちらですか?どうやって帰るんですか?」
酔っ払い「(豊平区の)旭町。歩いて帰れる」
若者「自分も家、そっちだから一緒に行きますよ」
俺「俺もそっちだから一緒に行くよ」

本当は西区だけどな。

国道36号線を横断して西3の角のミスタードーナツを通り過ぎる。

若者「財布とか、ケータイとか、家の鍵とか失くしてませんか」
酔っ払い「う・・ん。ある。あー大事なジッポがない」
俺「高い授業料だったな。酔っ払い過ぎだよ」
若者「まだ22時半ですよ」
酔っ払い「まだ22時半?あいつらどこ行ったんだろ」
俺「友達と一緒だったの?」
酔っ払い「四文屋で呑んでて、それから・・・」
俺「大通の吉野家の前で倒れてたんだぜ?」
酔っ払い「吉野家の前にいたんですか!?」
俺「覚えてないのかよ。ミュージシャンみたいだけど、何か音楽やってるの?」

俺が当てずっぽで言った言葉に、酔っ払いは足を止めた。

酔っ払い「そうなんすよ。殴られてもいいから俺の話を聞いてください!」
俺「いや、殴らないけど」
酔っ払い「殴ってもいいけど、最後まで話を聞いてください」
俺「殴らないって。話も聞くよ」
酔っ払い「俺、音楽好きなんすよ。音楽がめっちゃ好きで、でも音楽って生きてく上で必要ないんすよ。こんなこと言って殴られてもしょうがないけど、音楽ってなくても生きられるんすよ」
俺「まあ、無くても生きていける人もいるよね」
酔っ払い「こんなこと言ったら殴られるけど」
俺「殴らないから」
酔っ払い「俺、西野カナ好きなんすよ」
俺「俺も好きだよ」
酔っ払い「でも西野カナって、なんか違うっていうか、すげえいい曲出してるけどなんか。お兄さんはどんな音楽が好きですか?」
俺「俺?俺は・・・今、観てきたからSLANGが好きだよ」
酔っ払い「SLANG!俺も好きっすよ。でもKOさんは怖いっす。カウンターアクション界隈の人たち怖いっす」
俺「全然、怖くないよ」
酔っ払い「分かってるす。でも怖いっす。なんか怖いイメージがあるっていうか。でもSLANGは好きっす。ハードコアって、フガジとか、パンクならクラッシュ、ダムド好きっす。パンクって正直っす。社会に不満があってやってて。音楽って社会に不満があるからやるんすよ。だからハードコア好きっす」
俺「そうだな」
酔っ払い「KOさんが震災のあと、福島行ったこともすげえ、いい事だと思うし。いい事って言ったら陳腐になっちゃうけど」
俺「いや、それはいい事だろ」
酔っ払い「でもKOさん怖いっす。カウンターの人たちはみんなKOさん怖くないっていうけど、怖いっす。ライブのMCで『俺らのインスタ見てみ。ネコばっかだから』って言ってたけど、怖いっす」
俺「怖くないし、本当にネコばっかだよ。パンクスってネコ好きなんだよ」
酔っ払い「でもKOさんって絶対誤解されやすいと思うんすよ。誤解されやすい立ち位置だと思う。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチさんも」
俺「そうかもな」
酔っ払い「でも、あの人たちは音楽やってて、色々と動いてる。だから好きっす。正直な音楽っす。ほとんど視界見えてないっす」
俺「見えてないのかよ。じゃあ、この綺麗な桜も?」

酔っ払いは反対車線側まで歩いて桜を見た。

酔っ払い「全然見えません」
俺「もったいねえな。こんな綺麗な桜なのに」

俺たちは歩いて南7条大橋まで来てた。
酔っ払いは若者の方に話し始めた。

酔っ払い「お兄さんは何歳、何してる人?俺、お兄さんって呼ぶの嫌いなんだよね」
若者「自分は税金泥棒って呼ばれる仕事です。自衛官です。20歳です」
俺「自衛官のカガミだね、キミは」
酔っ払い「煙草吸いたい。煙草ください」
俺「俺はiQOSしかないんだよ」
自衛官「エコーならありますよ」
酔っ払い「なんかまた呑みたくなっちゃったな。呑みに行きませんか」

予測不可能すぎて笑いが止まらない。

俺「いいよ。呑みに行こうか。ここならもう少し歩けば平岸駅前に『だいこんや』って店があるから。でもワリカンな」

20分ほど歩いて酔っ払いの家を通り越して、だいこんやに到着した。

だいこんやの2階では俺の友達が2人働いていた。友達に、連れてきた2人を紹介した。

俺「さっき大通の道端で拾った酔っ払いと、介抱してた自衛官。歩いて送ってきた」
DJをやってる友達「それはまたすごいメンツwww」
俺「とりあえずビール3つ」
DJ「はいよ」
俺「実はさ、俺の家、西区なんだよね」
酔っ払い「俺んち泊まっていいですよ」
俺「絶対ヤダ。それならDJの家行くわ。通信制限かかってるから終電調べてくれない?」

終電まであと20分。ビール呑んで、音楽の話をして、焼き鳥を食った。

俺「今度どっかでライブやる時、招待してよ」
酔っ払い「いいっすよ。俺のバンドは世界一カッコいい。俺のギターは世界一カッコいい。観に来た方がいいっすよ」
俺「そいつは期待できるな。楽しみにしてる。・・・もう帰らなきゃ」
酔っ払い「まだ呑みましょうよ〜」
俺「俺は勉強しなくちゃいけないから。二級建築士」
酔っ払い「じゃあLINE交換しましょうよ」
俺「いいよ。あ、でも時間ないから名刺を渡しとく。あとで電話番号でLINE送っといて。じゃあな。さっきみんなで撮った写真送るわ」

地下鉄の駅で「◯◯(酔っ払いの名前)がLINEであなたを追加しました」と通知が来た。家に着いてメッセージを送るとすぐに返事が来た。

「ありがとうございますー!!」
「女性店員けっこうタイプで口説きなうです」

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コイツは大物になりそうだ。ボランティアと言うかわからないけど、良い事をした実感はあります。俺は酔っ払いを差別しないで済みました。今度、招待してもらう彼のバンドのライブが楽しみです。

「何もしないお前に何がわかる」
「何もしないお前の何が変わる」

長文お読みいただきありがとうございました。

【お店紹介】
だいこんや
〒062-0933 北海道札幌市豊平区平岸3条3丁目1−27
011-833-5151
https://goo.gl/maps/55XiGD8vC1P2